パーキンソン病の認知症予防への第一歩
– 多施設共同長期前向き研究の結果を発表 –

2022年7月15日

発表のポイント

  • 重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対して薬剤「ドネペジル」を投与することで、認知症の発症を予防できるかを検証した。
  • 試験薬投与開始から4年間での認知症発症は試験薬群で6.8%・プラセボ群では12.2%だったが、統計学的有意差は見いだせなかった。
  • 試験薬投与群では4年後の認知機能検査成績が良好で、便秘・めまい・疲労感といった非運動症状が少なかった。

 

概要

 パーキンソン病は高齢者に非常に多い神経疾患で、ドパミン神経の障害によって運動障害を生じますが、アセチルコリン神経にも障害を認めることが近年明らかとなっており認知症の主要な原因と考えられています。
 当院の武田篤院長・馬場徹パーキンソン病センター長は、パーキンソン病診療を専門とする全国21施設の専門家と共同でパーキンソン病の認知症予防を目指した多施設共同長期前向き研究を行いました。本研究では認知症リスクが高いとされる重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対し、アセチルコリン神経の働きを高める薬剤「ドネペジル」を4年間投与し認知症予防効果を検証しました。その結果、認知症予防効果は証明できませんでしたが、一定の認知機能改善効果や一部の非運動症状が改善する可能性が示されました。今後はより認知症リスクが高い群に絞って解析することで、パーキンソン病における認知症の効果的な予防法の解明につながることが期待されます。
 本研究結果は、2022年7月14日に英国の国際医学雑誌『eClinicalMedicine』に掲載されました。

支援:本研究は厚生労働科学研究費、日本医療研究開発機構の支援を受けて行われました。

 

研究内容

 パーキンソン病は中脳黒質のドパミン神経が障害されることで動作緩慢や手足の震えといった運動症状が徐々に悪化する病気ですが、人口の高齢化とともに患者数が急激に増加しており世界的にも大きな問題となっています。パーキンソン病では運動症状以外にも嗅覚障害やレム睡眠行動異常症、自律神経障害、認知機能障害など様々な非運動症状を認めることが明らかとなっており、特に認知機能障害が重症化して認知症となった場合には患者・介護者の生活の質が大きく損なわれ生命予後にも影響することから早期診断・治療が求められています。近年、パーキンソン病における認知機能障害にアセチルコリン神経の障害が深く関わっていることが分かってきましたが、これまでのところパーキンソン病における認知症発症を予防する治療法はありませんでした。
 当院の武田篤院長・馬場徹パーキンソン病センター長らは以前からパーキンソン病における認知症の発症予測に関する研究を続けており、パーキンソン病において重度嗅覚障害を認める場合に認知症を生じやすいことや、嗅覚障害の重症度がアセチルコリン神経の障害度と相関することなどを明らかにしてきました。本研究では認知症発症リスクの高い重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対してアセチルコリン神経の機能を高める薬剤である「ドネペジル」を早期から投与することで認知症の予防ができないか検証しました。今回、パーキンソン病診療を専門とする全国21施設の専門家との共同研究で、重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者201名をドネペジル投与群103名およびプラセボ群98名に分け、4年間のドネペジル投与によって認知症発症を予防できたかを調べたところ、ドネペジル投与群のうち7名(6.8%)およびプラセボ群のうち 12名(12.2%)が4年以内に認知症を発症しましたが、認知症発症リスクに統計学的な有意差は見出せませんでした。一方、認知機能検査成績はドネペジル投与群がプラセボ群に比較して有意に良い結果を示し、その他ドネペジル投与群ではパーキンソン病で良くみられる便秘・めまい・疲労感といった非運動症状が軽症となっていました。アセチルコリン神経障害に着目して長期間の薬剤投与を試した研究は世界初であり、本研究の結果はパーキンソン病における認知症予防に向けての重要なヒントになると期待されます。今後は、より認知症リスクが高い群に絞った解析を追加することで、効果的な認知症予防法の開発を目指しています。

結論:本研究では重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対して4年間のドネペジル投与を行うことで認知症発症を予防できるかを検証し、有意な予防効果は示せませんでしたが、ドネペジル投与によって認知機能障害を含む非運動症状を改善できる可能性が示されました。今後さらに研究を進めることで、より確実な認知症予測・予防法の開発を目指していきたいと考えています。

 

論文情報

論文タイトル:
Effect of donepezil for dementia prevention in Parkinson’s disease with severe hyposmia (The DASH-PD study): a randomized long-term placebo-controlled trial
著   者:
Toru Baba, Atsushi Takeda, Aya Murakami, Tadashi Koga, Tatsuya Isomura, Etsuro Mori, and DASH-PD study group
DOI番号:
10.1016/j.eclinm.2022.101571
U R L:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589537022003017

 

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