デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける誤嚥性肺炎発症を予測するための嚥下機能検査
– ベッドサイドで実施する嚥下機能検査の有用性 –

2022年8月19日

発表のポイント

  • デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さんのベッドサイドで実施する嚥下機能検査の結果により誤嚥性肺炎の発症を予測できるかどうか、後ろ向きに検討した。
  • 嚥下内視鏡検査が誤嚥性肺炎の発症を予測するために有用であり、改訂水飲みテストによるスクリーニング検査と組み合わせることにより感度が高くなることを報告した。

 

概要

 誤嚥性肺炎は筋ジストロフィー患者さんの主要な死因の一つです。筋力低下により嚥下機能障害が進行すると誤嚥性肺炎を発症しやすくなります。筋ジストロフィー患者さんの嚥下機能検査の結果に関する報告は嚥下造影検査を用いたものが多く、ベッドサイドで実施する嚥下機能検査に関する報告はほとんどありません。そこで、ベッドサイドで実施可能な嚥下機能検査により、誤嚥性肺炎の発症が予測できるかどうか後ろ向きに検討しました。誤嚥性肺炎を発症していた群と発症していなかった群を比較すると、嚥下機能検査の結果に有意な差を認めました。患者さんの年齢と嚥下内視鏡検査の結果には正の相関があり、加齢と共に嚥下機能が低下する傾向があることがわかりました。嚥下内視鏡検査の結果により感度 50%、特異度 83%で誤嚥性肺炎の発症を予測できることがわかりました。さらに嚥下内視鏡検査と改訂水飲みテストを組み合わせると感度 79%、特異度 69%で誤嚥性肺炎の発症を予測できることがわかりました。本研究は当院と東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科教室との共同研究による成果です。

 

研究内容

 誤嚥性肺炎は筋ジストロフィーの患者さんの主要な死因の一つです。筋力の低下により嚥下機能障害が進行すると、誤嚥性肺炎を発症しやすくなります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんは10代後半頃から食塊の咀嚼や咽頭デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける誤嚥性肺炎発症を予測するための嚥下機能検査 - ベッドサイドで実施する嚥下機能検査の有用性 - への送り込みといった口腔機能の障害が出現し、さらに20歳前後から咽頭機能の障害が出現して徐々に嚥下機能が低下することが多いと報告されています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんの嚥下機能の検査結果に関する報告は、病院の透視室で行う嚥下造影検査を用いたものがほとんどですが、嚥下造影検査を頻回に行うことは移動することが容易ではない患者さんにとっては負担になることに加え、X線の被爆を伴います。そこでベッドサイドで実施可能な嚥下スクリーニング検査、嚥下内視鏡検査により嚥下機能を評価し、誤嚥性肺炎の発症を予測することが出来るかどうかを明らかにするために検討を行いました。
 当院で嚥下機能評価を行ったデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さん43名の嚥下機能検査の結果と、検査後の2年以内の誤嚥性肺炎の発症の有無を後ろ向きに調査し、肺炎発症群と非肺炎発症群の嚥下機能検査の結果を比較しました。嚥下機能検査は嚥下スクリーニング検査と嚥下内視鏡検査を実施しました。嚥下スクリーニング検査は30秒間の空嚥下の回数を計測する反復唾液嚥下テスト(repeated saliva swallowing test;RSST)、3mlの水を嚥下してもらい、嚥下の状態とむせこみの有無を観察し5点満点で点数をつける改訂水飲みテスト(modified water swallowing test;MWST)の2種類を実施しました。嚥下内視鏡検査の評価には、12点満点で咽頭機能障害の重症度をスコア化する兵頭スコアを用いました。
 14名の患者さんが誤嚥性肺炎を発症していました。兵頭スコアの結果と患者さんの年齢には正の相関があり、高齢となるほど咽頭機能が低下する傾向があることがわかりました。肺炎発症群14名と、非肺炎発症群29名の嚥下機能検査の結果を比較すると、RSST、MWST、兵頭スコアいずれも両群間に有意差を認めましたが、年齢には有意差を認めませんでした。兵頭スコアで肺炎の発症を予測するためのカットオフ値の解析を行うと、兵頭スコア6点以上で感度50%、特異度83%で肺炎の発症を予測できることがわかりました。さらに MWST と兵頭スコアの両方またはどちらかで嚥下障害が疑われる結果であった場合には感度79%、特異度69%で肺炎の発症を予測できることがわかりました。

結論:デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さんの嚥下機能は加齢と共に低下する傾向があります。誤嚥性肺炎の発症をベッドサイドで行う嚥下機能検査の結果で予測するには、MWSTと嚥下内視鏡検査を組み合わせて行うことが有用と考えられました。

 

論文情報

雑 誌 名:
Auris Nasus Larynx
論文タイトル:
Bedside evaluation of swallowing function to predict aspiration pneumonia in Duchenne muscular dystrophy
著   者:
Ai Kawamoto-Hirano, Ryoukichi Ikeda, Toshiaki Takahashi, Sayaka Taniguchi, Masaru Yoshioka, Hiroyasu Tanaka, Hideki Oizumi, Tomoko Totsune, Saki Oshiro, Toru Baba, Atsushi Takeda, Yuta Kobayashi, Jun Ohta, Yukio Katori
DOI番号:
10.1016/j.anl.2022.07.006
U R L:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0385814622001924?vi a%3Dihub

 

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