認知症とパーキンソン病を予測する! レビー小体病を鑑別可能な新しい血液診断技術
– 採血だけで予測可能な疾患リスクの検査と有用性 –

2023年8月31日

発表のポイント

  • 高齢化社会を迎え、増加する認知症や運動障害などの加齢に関連した疾患について早期治療介入を実現するためには、発症前に正確な神経変性リスクを予測し、疾患を鑑別することが非常に重要である
  • 軽度認知機能障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症について、血漿バイオマーカーを用いた疾患識別のための新たな定量化技術を確立し、各疾患を高い精度で鑑別することが可能になった

 

概要

 世界中で高齢化人口が増加しており、認知症やアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)などの加齢に関連する疾患も増加しています。これらの疾患に関連するリスク要因を正確に予測することは、早期治療介入と発症前予防に非常に重要です。バイオマーカーは、疾患の診断とモニタリングにおいて重要な役割を果たしています。特にレビー小体病などの神経変性疾患では、特定のバイオマーカーが疾患の存在と進行を示唆ことができます。以前の研究で、脂肪酸結合タンパク質(FABPs)がレビー小体病の原因タンパク質αシヌクレインの神経細胞取り込みと毒性発現に必須であることを明らかにしました。そこでこの研究では、FABPsがレビー小体病の潜在的なバイオマーカーとして機能する可能性を調査しました。AD、PD、DLB、軽度認知障害(MCI)の患者と健康な対照群で、血漿中のFABPレベルを測定しました。その結果、すべてのグループで血漿中のFABP3が増加し、FABP5とFABP7のレベルはADグループでは減少傾向にありました。さらに、PDではFABP2のレベルが上昇していました。相関分析において、高いFABP3レベルは認知機能(MMSE)の低下および運動機能(Hoehn-Yahr重症度分類)の上昇と関連していました。また、Tau、GFAP、NF-L、UCHL1の血漿中の濃度は認知機能の低下と相関していました。さらに、疾患間の識別にスコアリング法を適用し、MCI対CN、AD対DLB、PD対DLB、AD対PDなどの疾患を、高い精度で鑑別出来るようになりました。この研究は、FABPsがレビー小体病の潜在的なバイオマーカーとして機能し、マルチマーカーのスコア化技術により早期の疾患検出と疾患の識別に役立つ可能性があることを示唆しています。この研究は東北大学大学院薬学研究科先進脳創薬講座(川畑伊知郎特任准教授と福永浩司名誉教授)との共同研究による成果です。

 

研究内容

 本研究では、高齢化社会により増加する認知症や運動障害などの加齢性疾患に着目しました。神経変性疾患に関連するリスク要因を予測し、早期診断と予防を行うためには、バイオマーカーの活用が重要です。特にレビー小体病などの神経変性疾患では、特定のバイオマーカーが疾患リスクと進行の程度を示す可能性があります。
 この研究では、FABP3というタンパク質がレビー小体病の進行に関与することを検討しました。またFABP5は脳炎症によるミトコンドリア損傷に、FABP7はオリゴデンドロサイトの変性に関与していることを明らかにしました。さらに原因タンパク質の腸から脳への移行もこの疾患において重要な役割を果たしています。これらの背景から、FABPファミリータンパク質(FABPs)がレビー小体病の状態を反映する可能性を検討しました。
 まず、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、軽度認知機能障害(MCI)の患者様および健康な対照群の血漿中のFABPsレベルを測定し、それらを比較しました。その結果、FABP3の血漿レベルはすべてのグループで増加していることがわかりました。一方、FABP5およびFABP7はADグループで減少傾向にありました。またFABP2はPD患者で有意に増加していました。この結果から、FABPsはこれらの疾患の潜在的なバイオマーカーとして考えられます。
 次に、既知のバイオマーカーを測定し、臨床症状との相関分析を行いました。その結果、FABP3の高い血漿レベルは認知機能および運動機能の低下と関連していることが明らかとなりました。また、Tau、GFAP、NF-L、UCHL1などの既知のバイオマーカーとMMSEスコアとの間にも関連が見られました。この結果は、これらのバイオマーカーが各疾患における認知機能の進行を予測するのに役立つ可能性があることを示唆しています。
 さらに、FABPsを含む複数のバイオマーカーの血漿レベルを利用して各疾患を鑑別するためのスコアリング法を探索しました。その結果、MCI対健常者、AD対DLB、PD対DLB、AD対PDなどの比較において高い精度で疾患を区別できることが示されました。これにより、以前の報告よりも高い精度でレビー小体病を検出することが可能になりました。

結論:FABPsおよび既知の血漿バイオマーカーを組み合わせたマルチマーカーのスコアリング技術により、MCI、AD、PD、DLBを高精度に鑑別可能となり、臨床症状だけでは診断がつきにくい患者様の疾患リスク予測に有用であると考えられました。

 

 

【図】各神経変性疾患におけるマルチマーカーのスコアリングによる疾患リスク値(A)とその感度・特異度を示すAUC曲線(B)。健常者と各疾患を高い精度で識別可能である。AUC値は1に近いほど感度・特異度が高いことを表す。* p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001, and **** p < 0.0001.

 

 

論文情報

雑 誌 名:
International Journal of Molecular Sciences
論文タイトル:
Using Fatty Acid-Binding Proteins as Potential Biomarkers to Discriminate between Parkinson’s Disease and Dementia with Lewy Bodies: Exploration of a Novel Technique
著   者:
Ichiro Kawahata, Tomoki Sekimori, Hideki Oizumi, Atsushi Takeda, Kohji Fukunaga
DOI番号:
10.3390/ijms241713267
U R L:
https://www.mdpi.com/1422-0067/24/17/13267

 

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