脊椎内視鏡センター


概要

「脊椎内視鏡手術の普及をめざして −脊椎手術のパラダイム・シフト−」
仙台西多賀病院 脊椎内視鏡センター長  山屋 誠司

医療機器と手術技術の進歩によって、今や胆石症だけでなく胃癌や大腸癌も内視鏡で手術する時代となりました。整形外科分野でも同様に肩・膝・股・肘・手・足関節まで各関節の関節鏡手術が広く行われています。脊椎内視鏡の歴史は今から約20年前に遡ります。米国でFoley, SmithらがMicroendoscopic discectomy (MED)を開発・発表しました。しかし当時の内視鏡画像の精度が悪かったため多くの合併症が報告され、その影響のため米国では現在も殆ど行われておりません。一方、日本国内では、米国で20年前に発表されたMEDを和歌山県立医科大学整形外科学教室前教授吉田宗人先生らが、日本に持ち帰り翌年から臨床応用し研究を続けました。内視鏡手術を行わない医師からは、米国で廃れた手術なのだから日本で普及しないと否定的な意見もありました。しかし、MEDを導入された吉田先生や、percutaneous endoscopic discectomy (PED)を初めて日本に導入された帝京大学溝の口病院前教授出沢明先生、徳島大学病院教授西良浩一先生らは、国内で脊椎内視鏡手術の研究・開発を続けました。その結果、内視鏡カメラの開発・発展と同時に手術適応疾患は広がり、今や頚椎から腰椎まで内視鏡下除圧術が行われるようになりました。現在国内では、和歌山県、東京都、愛知県、徳島県など積極的に脊椎内視鏡手術が行われる地区もあれば、まだ普及していない地区との差が大きくあります。東北地区も残念ながらまだ普及していない地区になります。
私は長年その思いを募らせておりましたが、2011年震災の年を契機に脊椎内視鏡手術をはじめ、その後,日本脊椎脊髄病学会クリニカル・フェローとして、これまで2年3ヶ月間、和歌山県立医科大学と徳島大学で、脊椎内視鏡手術の研鑽・研究のための国内留学の機会を頂きました。和歌山や徳島では、手術技術の確立だけでなく、弛まぬ医療機器の進歩と同時に臨床研究も行われ、脊椎内視鏡外科医の教育システムも充実しております。テレビ、パソコン、スマートフォンが年々最新技術を導入して進化しているように、内視鏡カメラも4K、8K、3Dなど年々最先端の技術が開発・発表され続けています。我々、脊椎外科医も常に研鑽と進化を続けることで、最善最良の医療を提供し続ける責務があります。

 当院の脊椎脊髄疾患研究センター長である東北大学整形外科名誉教授国分正一先生が提唱された東北大学脊椎手術の基本思想は5つ(5つのL)あります。
1. Less Invasive(患者さんの体の負担の少ない手術)
2. Less Complicated(シンプルで合併症の少ない手術)
3. Less Fusion(できるだけ脊椎固定をしない手術)
4. Less Metal Works(できるだけ金属を使用しない手術)
5. Less Expensive(医療費の負担の少ない手術)
この思想を全て満たす術式は、脊椎内視鏡手術の他はありません。

 仙台西多賀病院、脊椎内視鏡センターでは、
(1) 質が高く、安全、患者満足度の高い脊椎内視鏡手術を提供すること
(2) 脊椎内視鏡手術を東北に普及させるために、脊椎内視鏡外科医や看護師などスタッフを育成すること
(3) 東北から新しい低侵襲手術や治療法を世界に発信すること
この3つを皆様と一緒に取り組んでまいりたいと考えております。

 脊椎内視鏡手術件数の増加にともなう在院日数の短縮化、クリニカルパス、DPC導入など今後も大きな変化があるかと思います。持続可能な変化のために脊椎内視鏡センター3カ年計画、5カ年計画を皆様とともに計画して参りたいと考えております。5年後、10年後には、東北地方のどこでも脊椎内視鏡手術を標準術式として、うけられるような未来を目指して取り組んでまいります。
常に進歩を続ける最新の医療技術や医療機器を導入しながら、皆様から頂いたご意見や改善点などをもとに、あるべき脊椎内視鏡センターにむけて、年々進化して参ります。今後もご指導ご鞭撻の程、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

脊椎内視鏡手術は安全か?
近年発表された日本脊椎脊髄病学会の全例調査の結果、通常の大きい皮膚切開の除圧術(通常の除圧術)と内視鏡手術の合併症を比較すると、感染、硬膜損傷、血腫、神経損傷など全ての合併症において、脊椎内視鏡手術は通常の除圧術に比べて、合併症率は同等以下と報告されています。

 この理由はいくつかあります。
1. 手術手技の確立に加え、4K High-vision内視鏡カメラも含め最先端の高画質カメラや、内視鏡専門の手術機器が開発されたことで、より鮮明が画像で手術を安全に行えるようになったこと。(癒着部を剥離する必要があるときも、鮮明な画像によって安全に行えるため)
2.内視鏡手術は、傷が小さく、洗浄しながら手術を行うために、出血量が極めて少なく、感染しにくいこと。
3.学会が認定する脊椎内視鏡下手術・技術認定医の制度とその教育システム・教育機関、セミナーなどが国内で充実し、資格保有者が安全に手術を行うようになったこと。
(MEDの教育機関:和歌山県立医科大学病院整形外科学教室、角谷整形外科病院)、PEDの教育機関:徳島大学病院整形外科学教室 など)

 特に3番目の脊椎内視鏡手術専門の資格と、脊椎内視鏡手術の教育機関は、大きな役割があります。当センター長は上記2つの医療機関を経て、東北大学病院の後、現在に至ります。
十分なトレーニングと資格を有していない医師が、内視鏡手術を行えば当然治療成績が不良となり合併症率が高くなる可能性があります。学会等でも一般的に有資格者の執刀または、その指導のもとでの手術が推奨されております。
当センターでは、安全で質の高い脊椎内視鏡手術や低侵襲手術を提供することに加え、近い将来、東北地区で脊椎内視鏡手術を普及するための役割を担えるよう体制を整えてまいります。

西多賀病院では、どのような脊椎内視鏡手術をうけられるか?

当センターでは、通常の大きい皮膚切開で行う除圧術や顕微鏡で行う手術を含め、後方除圧術は約95%の方を内視鏡手術で治療しております。上記の表は当センターで内視鏡手術の対応が可能な一覧です。頚椎後縦靭帯骨化症(連続型)や胸椎後縦靭帯骨化症、頚椎・胸椎の再手術など内視鏡手術の適応外の疾患もあります。
当センターの受診を希望される方は、かかりつけ医の先生または、現在受診されている医療機関から紹介状をご用意頂いた上で、診察の予約をとられることをおすすめ致します。

脊椎内視鏡センター 新規患者様の診察予約日:毎週木曜日
予約電話番号 022-245-2304

脊椎内視鏡手術、入院期間は?
麻酔科医師の診察や検査などのために、少なくとも手術の2日前に入院していただくことが多いです。手術後は、5時間後または翌日朝から歩行訓練が始まります。手術後7−10日後に傷が治癒していることを確認してから退院となります。更に短期の入院を希望される場合は、ご相談ください。早期退院される方は、傷が治癒していることを確認するために退院後早い時期に外来に受診いただきます。
糖尿病や内科疾患、抗凝固剤(血液がとまりにくいお薬)を服用されている方は、検査や治療のために手術の1−2週間前から入院いただく必要がある場合もあります。重度の心疾患や腎疾患など内科の病気の状態が心配な方は、当院での全身麻酔や手術の対応ができない場合があります。その場合は大学病院など総合病院に紹介させていただく場合がございます。

直近6ヶ月間の脊椎内視鏡手術の件数
2018年4月~9月の6ヶ月間:合計129件
内訳:
頚椎内視鏡手術(CMELまたはCMEF):18件
胸椎内視鏡手術:1件
腰椎内視鏡手術(MED, MEL, MELF, PED, PELF, PEVF):110件

参考:昨年度64件、本年度200件以上の見込み


センター長 紹介

脊椎内視鏡センター長
(整形外科医長)
山屋 誠司

■専門分野
脊椎外科
脊椎内視鏡手術
■認定医・専門医等
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本専門医機構認定 脊椎脊髄外科専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定日本脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医
経皮的椎体形成術認定医
日本リウマチ学会専門医
日本整形外科学会認定リウマチ医
■経歴
平成15年3月:自治医科大学医学部 卒業
平成15年~岩手県立中央病院、磐井病院、大東病院、奥州市総合水沢病院 勤務
平成26年:東北大学大学院医学系研究科整形外科学分野 学位(医学博士)取得
平成26年:福島労災病院整形外科部長
平成27年~日本脊椎脊髄病学会クリニカル・フェロー(脊椎内視鏡手術の研鑽・研究)
平成27年4月:和歌山県立医科大学整形外科学教室 博士研究員、角谷整形外科病院 整形外科脊椎班 勤務
平成29年2月:徳島大学病院運動機能外科学講座 医員 勤務、東北大学整形外科 大学院非常勤講師
平成29年4月:東北大学病院 整形外科 助教 勤務
平成30年4月:仙台西多賀病院 整形外科 医長 勤務
平成30年10月:同病院 脊椎内視鏡センター長


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